職業がユニーク

良作だが尺不足、と思ったら続刊? 牧野圭佑「月とライカと吸血姫」の感想レビューあらすじ

月とライカと吸血姫 (ガガガ文庫)

「宇宙飛行士になりたい」という夢は、男子なら誰もが抱いたことがある夢だろう。本作品の主人公レフも、そんな夢を捨てきれずに宇宙飛行士の厳しい訓練に耐えていた。

レフはある日、宇宙に打ち上げる「実験体」として、「吸血鬼」を採用するため、その「実験体」の世話をするよう命令をうける。恐怖するレフだったが、実際に目の前に現れた吸血鬼は、自身の吸血鬼のイメージを打ち砕く、17歳の可憐な少女、イリナだった。

イリナは人間に憎しみを抱いていたが、レフの誠実さに徐々にその心を溶かし、二人は人間と実験体という関係を越えて結ばれていく――。

本作品は、1950年代(冷戦真っ只中!)のソビエト連邦をモチーフとした架空の国「ツィルニトラ共和国連邦」における宇宙開発に翻弄される青年少女を描いたものだ。当時のソ連はアメリカと宇宙開発競争を繰り広げており、その中には「ライカ犬」(地球軌道を初めて周回した犬、ただし宇宙空間で息絶えた)のような悲劇も数多くあった。

物語では、共和国の強引な政策とイリスへの冷酷な仕打ち、一歩間違えれば粛清が待っている緊張感と共に、イリナを宇宙空間へ打ち上げるための様々な訓練が描かれる。

とはいえこの作品、一冊分にそういったモチーフを盛り込みすぎているがため、とにかく尺が足りていない。

ロケット打ち上げまでに必要な訓練風景の描写、様々な登場人物たちの思惑等を描いているが故に、非常に広く浅くなってしまっているのが残念なところだ。

例えば、主人公を買ってくれている上官のコローヴィスは、事あるごとに彼に助け舟を出してくれるのだが、広く浅いが故にその行動理由や思想が伝わりづらい。

一方で、近年増えてきたチート、ハーレムなどの要素を排除し、国という大きな存在に対して、無力な二人が惹かれ合うという展開は純粋に見ていて美しいとも感じる。吸血鬼が好きな人、宇宙が好きな人は一度読んでみるといいだろう。

……と、そんなことを言っていたら、なんと続刊が出るとのことらしい。あらすじなどを見る限り、続刊から物語が本格的にスタートしそうな気配もあるため、引き続きこの話は追ってみたい。

 

 

管理人の評価

総合評価
この本の総合評価。他の項目との平均点ではなく、それ以外の要素も加味して採点。
3.5点
キャラへの共感
登場人物にどのぐらい共感できるか、感情移入してストーリーを追えるか
3.5点
可愛い・かっこいい
女性キャラは可愛く、男性キャラはかっこいいなど、キャラが魅力的に描かれているか
3点
わかりやすい
わかりやすいストーリーをか、または複雑なストーリーでも理解しやすい書き方になっているか
4.5点
興味深い出来事
作中で起きる出来事・イベントが興味深く、ストーリーを引っ張っているか
4点
読みやすさ
漢字・ひらがな・句読点・会話文・地の文のバランスがとれた読みやすい文章になっているか
4点
文章表現・会話
比喩等のレトリックが適切に使われ、会話文にユーモアがあるか、情景描写などが丁寧か
3点

 

安心して読める王道学園ミステリ。感想:「鉢町あかねは壁がある」

鉢町あかねは壁がある カメラ小僧と暗室探偵 (角川文庫)

高校を舞台とした青春系のライトミステリ。写真部に所属する有我遼平(あるがりょうへい)と、中学時代からお互いに避け続けている鉢町丹子(はちまちあかね)の関係と、その周りで起きる事件についてを描く。

遼平は、幽霊部員の多い写真部で珍しく活動的に動いている生徒だ。丹子は校内で「スマイル」という名のつく占い師をやっており、タロットカードを用いた占いに定評がある。とはいえ、本当に占いの素質があるわけではなく、単にコールドリーディングのスキルが高いだけ。結構口が悪い。

だが、ひょんなことから遼平は、弓道部で起きた事件の真相について、写真部の部室で丹子と話すことになってしまう。ただし、丹子は暗室で、遼平はその外で。それがきっかけで、二人の奇妙な関係が始まった――。

本作品は学園系ラノベタッチのライトな推理小説だ。典型的な探偵役&ワトソン役で、探偵役が女子、ワトソン役が男子の構図。起こる事件は学内で起きうる日常的な事柄を取り上げつつも、疑問や問題提起を上手に煽りながら読者を作品世界に引き込んでいく。ライトなタッチとは裏腹に、伏線や登場人物はしっかりと回収されており、プロットの綿密さが伺える。

キャラクターの丹子はかなり濃い目のキャラに設定されており、根は大変口が悪い少女だが、状況によって色々な顔を使い分ける賢いヒロインでもある。ところどころで入る意味不明なセリフと、それに対する辛辣なツッコミを始めとした会話のコミカルさも良い。

そして、「遼平と丹子は面と向かって話せない」のである。丹子はとっさに目についた偽名を使い、壁を挟んで常に遼平から姿を隠しながら、遼平にバレないよう声色を隠して話し、遼平が出会った様々な事件を解決に導いていく。

帯にある「顔ばれしたら、終わっちゃうから、この関係」は、本作品の売りどころを凝縮したようなキャッチフレーズだ。重すぎず軽すぎず、楽しみながら読める一冊。オススメしたい。

管理人の評価

総合評価
この本の総合評価。他の項目との平均点ではなく、それ以外の要素も加味して採点。
3.5点
キャラへの共感
登場人物にどのぐらい共感できるか、感情移入してストーリーを追えるか
3.5点
可愛い・かっこいい
女性キャラは可愛く、男性キャラはかっこいいなど、キャラが魅力的に描かれているか
3.5点
わかりやすい
わかりやすいストーリーをか、または複雑なストーリーでも理解しやすい書き方になっているか
4.5点
興味深い出来事
作中で起きる出来事・イベントが興味深く、ストーリーを引っ張っているか
3点
読みやすさ
漢字・ひらがな・句読点・会話文・地の文のバランスがとれた読みやすい文章になっているか
4.5点
文章表現・会話
比喩等のレトリックが適切に使われ、会話文にユーモアがあるか、情景描写などが丁寧か
4点
ここから先はネタバレを含みます。未読の方はご注意ください。

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