高校を舞台とした青春系のライトミステリ。写真部に所属する有我遼平(あるがりょうへい)と、中学時代からお互いに避け続けている鉢町丹子(はちまちあかね)の関係と、その周りで起きる事件についてを描く。
遼平は、幽霊部員の多い写真部で珍しく活動的に動いている生徒だ。丹子は校内で「スマイル」という名のつく占い師をやっており、タロットカードを用いた占いに定評がある。とはいえ、本当に占いの素質があるわけではなく、単にコールドリーディングのスキルが高いだけ。結構口が悪い。
だが、ひょんなことから遼平は、弓道部で起きた事件の真相について、写真部の部室で丹子と話すことになってしまう。ただし、丹子は暗室で、遼平はその外で。それがきっかけで、二人の奇妙な関係が始まった――。
本作品は学園系ラノベタッチのライトな推理小説だ。典型的な探偵役&ワトソン役で、探偵役が女子、ワトソン役が男子の構図。起こる事件は学内で起きうる日常的な事柄を取り上げつつも、疑問や問題提起を上手に煽りながら読者を作品世界に引き込んでいく。ライトなタッチとは裏腹に、伏線や登場人物はしっかりと回収されており、プロットの綿密さが伺える。
キャラクターの丹子はかなり濃い目のキャラに設定されており、根は大変口が悪い少女だが、状況によって色々な顔を使い分ける賢いヒロインでもある。ところどころで入る意味不明なセリフと、それに対する辛辣なツッコミを始めとした会話のコミカルさも良い。
そして、「遼平と丹子は面と向かって話せない」のである。丹子はとっさに目についた偽名を使い、壁を挟んで常に遼平から姿を隠しながら、遼平にバレないよう声色を隠して話し、遼平が出会った様々な事件を解決に導いていく。
帯にある「顔ばれしたら、終わっちゃうから、この関係」は、本作品の売りどころを凝縮したようなキャッチフレーズだ。重すぎず軽すぎず、楽しみながら読める一冊。オススメしたい。
管理人の評価
総合評価
この本の総合評価。他の項目との平均点ではなく、それ以外の要素も加味して採点。
3.5点
キャラへの共感
登場人物にどのぐらい共感できるか、感情移入してストーリーを追えるか
3.5点
可愛い・かっこいい
女性キャラは可愛く、男性キャラはかっこいいなど、キャラが魅力的に描かれているか
3.5点
わかりやすい
わかりやすいストーリーをか、または複雑なストーリーでも理解しやすい書き方になっているか
4.5点
興味深い出来事
作中で起きる出来事・イベントが興味深く、ストーリーを引っ張っているか
3点
読みやすさ
漢字・ひらがな・句読点・会話文・地の文のバランスがとれた読みやすい文章になっているか
4.5点
文章表現・会話
比喩等のレトリックが適切に使われ、会話文にユーモアがあるか、情景描写などが丁寧か
4点
ここから先はネタバレを含みます。未読の方はご注意ください。
感想・あらすじ(ネタバレ少しあり)
カメラが題材になっているので個人的な趣味により購入したが、「アタリ」の部類に入る作品だった。登場人物はそれぞれキャラ立ちがしっかりしており、各章にまとめられたエピソードもテンポよく展開していく。
また、日常的な高校生活におけるイベントを扱うにあたり、部活動をはじめとする様々な「高校生活の日常」について、きめ細やかに調べられたうえで描写されているのも好印象。最近のライトノベルでは各部活はとんでもない権力を持っていたり、明らかに高校生活と逸脱するような活動内容を持っていることも少なくないが(それはそれ良いのだけれども)、本作品に関しては、あくまで現実的な範囲に留まっている。
ボケとツッコミが的確に入る会話文でしっかり楽しませようとする意思を感じる点もポイントが高い。
ストーリーは「次回大会出場確実な美人の弓道部の先輩がなぜ部活をやめたのか」「学校史上稀に見る野球部のエースが突然暴投した理由」「遼平のカメラを気づかれない間に盗む方法」といった、読者の気を惹くイベントが多く散りばめられており、それと並行する形で「遼平と丹子の間に、過去何があったのか?」という謎がしっかりと解き明かされていく。エピローグでは、遼平と丹子の間にあったわだかまりが実は誤解によるものだと判明するわけだが、その過程で描かれる二人の感情の機微についても、重すぎず軽すぎずの筆致で描写されている。
サブタイトルになっているカメラは序盤ではあまり登場しないが、丹子との関係を決定づけた一つの道具として描かれているのも好感度が高い。「写真を撮る」という行為がどういう意味なのかについても、きちんと掘り下げられている。占いについても同様。主要なキャラクターが取り組んでいる事柄について、その行為の意味について作中でしっかり語られているというのは、キャラクターに対する共感を深める上では必要不可欠だと感じる。
次回作があるかどうかなんとも言えない終わり方であるが、個人的には続刊が出てほしい一冊。